～みんなちがって、みんないい～

「若き詩人中の巨星」と西條八十に絶賛を受けながらも、
２６歳で夭折した童謡歌人　金子みすゞ。
生誕１００年を間近に控えた現在、彼女の不遇のと作品が注目されています。
１９０３（明治36）年、山口県長門市仙崎（当時　大津郡仙崎村）生まれ。
本名を金子テル（田中美里）という。
１５歳の時に叔母の死をきっかけに、
未亡人であった母ミチ（永島暎子）がその後妻として、
上山文英堂という書店を持つ下関の上山松蔵（中村嘉津雄）に嫁ぐ。
上山家の長男は、テルが４歳の時に養子に出された実弟の正祐（加瀬亮）。

母が嫁いでまもなく、テルは結婚した兄と嫁に押し出される形で、
上山文英堂へ移る。
そこで、テルは商品館の中にある小さな間口の書店を任された。
毎日好きな本に囲まれながら、店番のかたわら書いた詩を“みすゞ”という
ペンネームで雑誌に投稿する。

大正１２年６月、初めて投稿した作品が次々と人気雑誌に掲載され、
西條八十（イッセー尾形）から「若き詩人中の巨星」と絶賛される。
わずか３年にして『日本童謡集』に２編の詩が掲載。
この本には、北原白秋、竹久夢二、若山牧水など、
そうそうたる顔ぶれの文化人らの作品が掲載されている。

そんな折、店の使用人葛原信爾（寺島進）との縁談が持ち上がり、
“周囲の強いすすめ”で結婚。
実の姉弟である事を知らされていない正祐は、
テルの才能の理解者であり、テルをひとりの女性として慕っていた。

だが葛原は祝言の日、花街の女郎と心中しそこなった生き残りである過去を
テルに話し、その後も遊郭へ入り浸り上山文英堂を辞めてしまう。
長女ふさえが誕生するが、遊郭通いが絶えない葛原に淋病をうつされ、
童謡を書く事や投稿仲間との文通を禁じられた。

病臥に伏すみすゞだったが、自らの作品を３冊の手帳に童謡集として清書する。

４年後正式離婚。
しかし当時、子の親権は母親にはなかった。
長女ふさえの親権を主張し、みすゞから引き離そうとする葛原。
昭和５年３月９日、葛原がふさえを連れにくる前夜。
写真館に出かけ最後の写真をとったみすゞは、ふさえと一緒に風呂に入り、
桜餅を食べ２階の寝室へ上がる。
いつもと変わらない団欒の夕べ、その夜みすゞは１つの決断をする。


文壇の権威から絶賛されながら、周囲のいいなりのまま意に添わぬ結婚をし、
豊かな才能を押しつぶすかのような夫に従ってしまうみすゞに対して、
もっと自己を主張したり、才能を伸ばして離婚すればいいのに、と
彼女をとてももどかしく感じてしまうのは、きっと私が
職業も結婚も自由に選択できる時代に育ったからなのかもしれない。

今年９月頃、フジテレビで松たか子主演でドラマ化されたのを観た。
離婚後、親権を主張し長女ふさえを強引に引き取ろうとする葛原のやり方と、
生み育てた母親に親権のない事に怒りを訴えていた、松たか子の涙顔を思い出す。
どんなに才能に恵まれていて、世間にその才能が認められていても、
金子みすゞの理不尽な生涯は、その当時の、といってもつい７０年くらい
前の事なのだが、日本の女性のよくある生き方だったのだ。
才能だけでなく、人として幸せになる為の権利もなかった時代が、
つい最近まであったのだ。

フェミニスト達が、トーク番組でどんなテーマで話をしていても、
諸悪の根源が全て男性にあるように話す事に多少ウンザリするのだが、
金子みすゞの人生のように、あたりまえにあるはずの権利が、
つい最近まで女性にはなかった事を思うと、主張してくれる人が
いるのは、女性達の為に必要なのだと思えてくる。
映画は、田中美里のポートレイト集と言っていいような美しい映像で、
みすゞの複雑な家庭環境などの説明的な描写は無く、
みすゞの不幸も童謡もイメージ的な描写になっている。
ストーリーが分からなくなっているわけではないし、
童謡もナレーションされるので、ただ観ていても心に染み込んでいくと思う。

ところで、みすゞに恋してしまう正祐役の加瀬亮ですが、ＫＤＤＩのＣＭで、
トヨエツに「チャックだよ、チャック！」とイカす視線で注意されていた
ベルボーイ君なのです。
あのＣＭみて、「カワイイおとこのこ、ムフッ」と思われた方、必見です。
彼は浅野忠信と同じ事務所に所属する役者さんで、しばらくの間
浅野忠信に付いて役者の勉強をしていたそうです。
これから「ハッシュ」「ロックンロール・ミシン」「ＦＲＯＧ　ＲＩＶＥＲ」と
主演映画の公開が控えています。ブレイクするかも。要ＣＨＥＣＫですね。

text by...  ris

2001/09/30